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Song Reader がやってきた

きた…!
これは amazon.com で注文した分。beck.com ももう出荷したみたいだし、世界中(のごく一部)で、ぞくぞくと Arrived 自慢が広がっています(私もね)。McSweeney’s で注文したサイン入りはまだこない。カスタマーセンターに聞いてみたら7日に出荷すると言ってましたよ。
 
ひんやり冷たいカバーをあけると、美しく楽しげな楽譜たちが…!
 
きちんと抜かりなく、丁寧に作られたものが放つ、独特の雰囲気や重さといったものを感じたよ。1曲ずつ冊子になっているんだけど、必ず最後にフェイク広告だったり、フェイク広告としてのサンプル楽譜が載っている。たとえば、“Scarlett Weiss による最高のバラード” というキャッチコピーで楽譜が1枚載っていて “全国の音楽ショップで発売中!” とあったり、“音楽の秘訣は衛生です” とかいった見出しがついたコラム広告だったり、“Song Reader Readers のためのミュージックアクセサリー” とかいってバターナイフや缶切りなどの音楽の必須アイテム(?)のカタログが載ってたりする。きっと昔の楽譜はこんなふうにイカしたデザインの広告が載っていたんだろうね。そこらへんにBeckさんは パアァァァァン♥ となったのだろうよ。
 

楽譜は読めなくても英語なら(がんばれば)読める! 少なくともデザインを楽しむことはできる! オーー!
 
それらのサンプル楽譜には “by K. Marx” というように、作曲家の名前が入ってるのもあるけど、そもそものクレジットに “All music and lyrics wtitten by Beck” とあるのでサンプル楽譜を含めた全部の曲は Beck によるものだと思います(裏までは全部とってないけど)。それらのサンプル楽譜は全部で33曲! ギョエーー! すごく短いのもあるけど、本編と合わせて53曲も Beck の曲が入ってるなんて… 全部Beckの音で聴かせてくれよ!(本心)。

アートワークはどれも素晴らしい。Beck はどこでこんなイカしたアーティストたちを見つけてくるのでしょうか。アートワークには元ネタがあるのもあるんだね( ※ Beckによると「We reused a few of the old images on these sheet music covers」だそうです)たとえばコレとか。

こちらのサイトで、Beck が見漁ったであろうアメリカの昔の楽譜がいっぱい見れるので、参考にどうぞ。

ホコリがかぶってたかもしれない既出のモノを、独自の感性で現代的な新しいモノに変えるという Beck のベースとなる手法が、アートワークにも生きています。決して後ろ向きなレトロ趣味ではなく、現代のアーティストによる洗礼された再解釈、、、 憧れの世界がここに…!

そういえば、Song Reader には「Please Leave A Light On When You Go」という曲がありますが、これ、2007年のジャパンツアー時に、大阪でちらっとプレイしてるんだよね! Lonesome Tears の前にアコギで歌った曲。この曲覚えてるし、ブートも何度も聴いたわ! Song Reader 曲の、貴重な Beck の演奏です。

それと細かいことですが、各曲の Published(出版元)がざっと見た感じ全部違うんだよね。まあマジ・クレジットは Beck のレーベルである [Youthless] になってるので、なんかのシャレなんだろうけどさ。これもそうだけど、ジャパニーズには分からんシャレが多々あって(そもそもシャレなのかも分からん)、歯がゆい感じも否めない。ヘンッ

ともあれ、各楽譜のトビラに書かれた “by BECK HANSEN” のという文字を見て、「あぁ Beck の新譜なんだなぁ…」とじんわり胸熱。実物を見てから Beck による序文を読むと、改めてその音楽愛に胸を打たれます。これからじゃんじゃんとみんなが演奏した曲がアップロードされたり、各地で Song Reader 大会が開かれることでしょう(とりあえず月曜に UK の Rough Trade で SR イベントが開催されます)。みんなが知ってるミュージシャンによる演奏もこれから聴けるはずだよね? 手元に届いてからゆっくり時間をかけて味わえる Beck のニューアルバム。こんなアルバムの楽しみ方は初めてだわ。
Thank you Beck! We love you!!

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Rework_の感想を少し

Rework_Philip Glass Remixes」の CD が届きまして。
 
amazon や、へたすりゃオフィシャルでも「Rework: Philip Glass Remixed」という表記だったけど、CD ジャケットでは “Remixes” と書いてあり、情報が適当に混乱している様子です。

全体的な感想はというと、取っ付きにくいかもしれない Philip Glass の音楽を、普通にカーステレオでも聴けるくらいにそつなくにポップにきちんとまとめた という印象。特に驚きはないけれども、面白くないわけじゃない… うん、リミックスアルバムにしてはなかなか聴き応えのあるアルバムなのではと思います。

やっぱり断トツで素晴らしいのは Beck のリミックス “NYC: 73-78” ですよ。
(以下、褒め倒します)
 
約21分という前情報が出たときから断トツ素晴らしいのは薄ら分かっていたわ。曲の長さ抜きにしても、Beck のリミックスだけ毛色が違うよね。Beck だけ「Remix」の定義が違う気がする。“Harry Partch” と同様の「分解、自分の味をプラスして再構築」という技法だけど、“Harry Partch” より真面目に、そして Glass の眉間のように深淵で、もちろん洒落っけも忘れない、気合いの入ったかっちょいいリミックスになっていると思う。元曲さっぱり分からないけどね!

毎度のことだけど、音の切り替えがすごいっす。突然スイッチするんだけど、それが絶妙に気持ちいいんだな。展開が小気味いいうえに無駄な反復も一切ないので、21分でも全くだれないしね。ちょこっと入るドラムとか、すげー低音とか、随所でにくい仕事してますわ(いつもだけど)。

そして一際印象的なのは、Beck が3人くらいでハーモニってる最後のパート。アコースティックの中に電子音が通り過ぎるなどの小技はもちろん、エコーな声の中に生っぽい声がスライドしてきたりなど、魔法がかったレイアー感にうっとり。それに加え、まろやかハスキーなBeckの声はとても味わい深く、五臓六腑に沁みわたるわぁ…。ヘッドホンで聴くとトリップ感が増強されて楽しい。、、、いやはや、かっこいいっす。

 
こういうバチギメな曲を聴くと、もっとリリースしてよ先生よぉ と突っ伏して泣きたくなりますが、JMJ が言うには Song Reader とは別の「ずば抜けていい」アルバム?が進行中らしいので(しかもかなりの曲数が生まれてるらしい)、じっと待ちますよ。待ちますとも。
 
 

IJSHSPTの感想

私の感想なんかどうでもいいですが、そうやって口をつぐんでも面白くもへったくりもないので、ちょろっと書きます。

私的に期待通りなレコードでした! 
BeckとThird Man Recordsがお届けする、愉快でナードな大人のカントリーソング “I Just Started Hating Some People Today”。プロローグ的なトラディショナル・スタイルから、ビョーンと始まる低音は、何度聴いてもワクワクします。まろやかなペダルスティールにのせて歌うBeckの声はとても気持ちよく、真髄ここにあり!という感じ。のんきで愉快な曲かと思いきや、「I just started wanting to kill someone」とか「to see you dead」とか「to punch your face」とか物騒なこと歌ってるし! まさかの殺人ソングです。Karen(Jack元妻)も笑いながら「I’m gonna kill you Randy」とか言ってるし、Jack(Karen元夫)もそのシャウトかなり蛇足だし、こいつら危ない!ランディ逃げて!(ランディ誰?)

“Blue Randy”のしっとり感も、今までにないかっこよさだわ。ウイスパー気味に歌うBeckの渋い声がスティールギターによく合って、聴き触りがよいねぇ。歌詞もいい感じ(な気がする)。(つまりべた褒め)

今回はTMRのシリーズだし、よそんちでのレコーディングなので、「Beckのオリジナル」という点ではこの前リリースの“Looking For A Sign”の方が濃いと思うけど、他にもないJack Whiteとのこの企画は、すごく楽しみだったし、楽しんだし、楽しんでる。

“Corrina, Corrina”のコンピも手に入ったし、“Looking For A Sign”と合わせて、4曲も新しい曲がある。“I Only Have Eyes for You” もあるか。今日もかっちょいいラップ曲を聴かせてもらえたし、しばらくは裕福に暮らせそうです。お肌ツヤツヤだわ。

歌詞はこちら(@whiskeyclone.net)
I Just Started Hating Some People Today” 
Blue Randy

Mirror Traffic

Stephen Malkmus & The Jicks ‘Mirror Traffic‘ の国内盤が本日発売となりまして。聴きまして。

プロデューサー・Beck Hansenが手がけたフル・アルバムはこれで3枚目となります(Jamie Lidellの ‘Compass’ もあるけどトータルなプロデュースではないので省くよ)。
 
本格プロデュース第一弾のCharlotte Gainsbourg ‘IRM’ は、プロデュースどころか曲も詞も書いている上に、歌い手の本業は歌手ではないので、”もろBeck” なアルバムとなりました。Charlotteもそう望んだんだし、そりゃ当然です。
 
その次のThurston Moore ‘Demolished Thoughts’ は、ストリングスを入れた構成がなんとなく ‘Sea Change’ を思わすことから( ‘Sea Change’ よりThurstonのソロ前作に近いのに)、こちらも “もろBeck”と評した人が多く、「Beckがプロデュースすると全部自分の色にしちゃうらしい」といったような、いささか腑に落ちない判定もちらほら目にしました。(Hamネット調べ)(ちらほらなだけで、大体は正当に高評価だけどさ)

Beck Hansenともあろうお人が、そんなあまっちょろい仕事をするわけがあるまいよと、私は思うのよ。アーティストの意向を読み取り、いかしたアイデアと持ち前の遊び心をちょっとプラスして、いままでとは少し違う、洗練されたアルバムを作る、そんなプロデューサーだと私は思っています。今回の ‘Mirror Traffic’ でそれが証明されたと思うのだが、いかがでしょうか。
 
………
 
わたくし、以前から述べている通り、PavementもMalkmusも正直ぴんときません。Malkmusの前作も聴いてみたけどグッとくるものはなく…(もちろん悪くはないし、むしろ良いとは思うけどね)。まあ、好みの問題なのでしょうがないです。そんな私が、このMalkmusファンにとって大事なアルバムについてあれこれ言うのも失礼だし、90年代オルタナへの慕情もないので、軽く感想を述べるに留まろう。

トータルで3回聴いてるけど(聴きながら書いてる)、聴けば聴くほど味わい深くなるような…。こういうフリーダムな感じのアルバムは往々にしてそうかもしれないけど、ただ脱力してるだけではない、若者には作れないであろう、特別な何かがある(気がする)。それは歳を重ねたオルタナ重鎮の大人の余裕や達観なのかもしれない。へなちょこなギターも、ふらりとしたヴォーカルも、だからこそ価値があるのだと、笑顔をもってこのアルバムに迎えられている気がする。それこそMalkmusの魅力なんだろうな。それを引き立て、洗練させたBeckのへなちょこへの愛情。”Beckの音” というのは聴こえないけど、Beckがはとても丁寧な仕事をしていると思うよ(具体的に言えないけどさ)。
 
いいね、大人のアルバムだ!
 
 
(しいて言うなら、国内盤ボートラの「Polvo」はBeck臭がちょっと強い)
 
 

Demolished Thoughts

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本日発売されたThurston Moore ‘Demolished Thoughts’ 国内盤、まずは仕様から。
 
紙ジャケ、歌詞とアートのブックレット、ママの写真、ライナーノーツはサーストンの前衛的レコーディング日記の和訳(後述します)、歌詞の日本語対訳(ボーナストラックは省く)、そしてCDを外すとWOW! そこにはBeckちゃんたちのお写真。青いお靴を持ってるわ!きっと裸足ね。(写真はクリックで拡大するよ)

クレジットにはプロデュース、アレンジの他、「 Beck Hansen – synths, vcls, bass 」とある。ギターは弾いてないのかな?

………………
 
 
で、聴きまして。

少し歳をとったサーストン少年が、優しく穏やかにペーソスを奏でた、とても美しいアルバムです。
清々しく、時に不気味な弦のアンサンブルは、サーストンのソロ前作 ‘Trees Outside the Academy’ でも聴くことができるが、今作は、それに広がりと明るさが加わった感じ。まあ、全体的に、前作(というか全作)と大差はなく、曲調も相変わらずなサーストン節なのだが、雰囲気はすいぶん違う。前作が窓のないクラブでの演奏だったら、今作は天井の高い、光が差し込める石造りの室内にいるようなイメージ。どこまでがBeckの仕事なのか分からないけど、この広がりや優しさを作ったのはBeckの御技なのかなーと思う。

前評判、もしくは売り文句として「サーストン版Sea Change」と言われてるけど、Sea Changeの魅力である情景的なストリングスや、”今まさにどん底”的な深い悲しみは感じられない。サーストン特有のペーソスはあるけど、私は恋がはじまる様なほろ苦くも明るい印象もうけたよ。Beck+ストリングスってだけで、Sea Changeに当てはめちゃうのは安易だよ。Sea Changeより全然前作に近いよ。(ま、いいけど)

“Circulation”の後半の疾走感は素晴らしいね。Beckのアイデアかは知りませんが、他の曲でもやたら長い前奏や後奏があり、レコクラのようなプレイヤー同志の一体感みたいなのが感じられて、聴いてて気持ちがいい。「あれ?この曲さっき聴いた?」的なデジャヴも随所におこるが、いいじゃない、そこはSonic Youthメンのアイデンティティーさ。Beckがこそっと入れたようなの控えめな電子音もセンス抜群。よく聴くと随所に小道具や飛び道具が仕込まれてて、にゃるほど、Beck先生、いい仕事してます。

意外なことや、大きい変化はないアルバムだけど、サーストンのソロを始めて聴く人にはとっても新鮮だろうし、そうでなくても長く聴ける、いいアルバムだと思います。
ボーナストラックが一瞬Beckが歌ってるかと思ってびびったよ!(もちろんサーストン)
ボートラ、かわいい。

……………..

ライナーノーツのサーストンの前衛的レコーディング日記ですが、原文はこれ
途中まで訳したんだけど、文がアートすぎて途中で断念してたんだよね。うれしいわ。

きっとほとんどが創作だと思うけど、Beckの描写がいちいちおかしい(いや、文全体が滅裂なのだが)。「ベックは片方の手でハンドルを操作し、もう片方の手で頭に付けたムチ型のマイクを調整」とか思わず想像してしまう(もちろんBeckはサングラス)。あと、「サーストン、アルバムをプロデュースしてやるよ」の部分、原文が “yes. Thurston. i. will. Produce. Yr. record.” ってなってて、このピリオドはBeckさんのゆっくりとしたしゃべり方を表現してらっしゃるのかしらと思ったり。サーストンのBeckへの愛がかいま見れる気がしますアハン。
 
  
 
…1日目としてはそんな感じでしょうか。